メディアをにぎわせている有名デザイナー氏の諸々の「パクリ疑惑」に関しては、もしも堤真一が危機管理の対応をしていたなら、間違いなく「あなた方は初期対応で完全にミスを犯した。既に危機に直面しています」(©リスクの神様)と述べる気がします。特にバッグに関しては「デザイン事務所の部下」が作成したもの、と発表したようですが、もしも自分が危機管理対応の担当者だったらこんな言い訳は通用しないだろうから言わせないな、と思います。この件を危機管理の観点からケーススタディとして考えてみました。
私見では、ある一定規模のデザイン事務所が、受注した仕事をスタッフや部下に分担することは普通にあることで、それ自体にはまったく問題ないと思います。それらを責任者の名前で発表するのも当然でしょう。ただし、責任者は問題が起きないように対処しなければならないし、それでも問題が起きたら責任者は外部に対して、全責任を負うのは自分であると言わねばなりませんが。
今回、報道などを見ていて気づくのは、このスタッフと責任者との関係、つまり「上司と部下の関係」についてあまり言及する人がいないようだ、ということです。もちろん事実として認定されていない以上はメディアが報じることはないのでしょう(2ちゃんの掲示板などでは既出)。よって、ここではどのみち勝手に危機管理担当者になったと仮定しているので、勝手に推測してみたいと思います。
私が危機管理担当者なら、事務所で関係者から経緯をヒアリングする中で、きっと直感的に想像するであろうのは、「部下がやったというのなら、そのパクり行為は意図的なんじゃないの?」ということです。つまり、今回のような模倣はインターネットによって簡単に露呈してしまう時代ですから、部下だってデザイナーという職業に就いた以上、そんなことを軽々にするはずはない、という前提に立ちたいと思います。バレた時に困るのは、誰よりもパクった本人ですから。
しかしそれがまかり通ってしまった、ということは見逃せません。パクった人は、上司がパクリかどうかのチェックもしない人物だとおそらく確信していたのではないか? だからパクった状態のまま提出した。案の定、上司はチェックもせず、自分がデザインしたという形でクライアントに提出し、採用された…。だからやっぱり、なぜデザインを任された部下がそのようなことをしたのか、という点は気になります。もしパクり行為がバレてデザイナー生命に危機が訪れるとしても上司を困らせたかったのではないか? と、これは本当にただの想像ですが、そう思うしかない気がするのです。
なぜそんなことをしたのかについて想像を続けると、部下は上司や事務所内に何らかの不満を抱えていて、上司を陥れようと考えたのではないか、だからパクリを意図的に行って、後日その上司や事務所が困るのを見て喜ぼうとしたのでは、という可能性に思い当たります。もしもそうだとしたら、危機管理の観点からはやはり、いきなり「事務所のスタッフのせい」と発表するのは早計であったと思います。部下というのは多かれ少なかれ上司に不満を持つものですが、さすがにこれは度が過ぎています。しかし度がすぎるほど追い詰められていた部下の心情も考慮すれば、これは事務所内での喧嘩両成敗が妥当でしょう。こういう場合、上司側は「恨まれる覚えはない」などと言ったりしますが、それは本人がそう思っているだけで、部下からすれば許し難い何かがあった可能性はあるからです。
実際にはそうした事務所内のゴタゴタであるだけなのに、そういうことを隠したまま外部に対して発表し、いかにも「自分は悪くない」というニュアンスで事を進めるのは、どう考えても「初期対応のミス」です。事務所側が、部下がやったことだと言うのであれば、「なぜ部下は、そんなすぐバレることをしたのか?」という真相について、声明発表前に解明しておかなければならないでしょう。それがないまま「部下はいま夏休みだからヒアリングできない」などと自分の妻に発言させるのは、状況の悪化を招くだけです。スポークスパーソンでない人にはちゃんとノーコメントを徹底させておきたいものです。
今のメディアの論調(とか世論?)では、パクったことを弾劾する傾向が強いですが、これがもし、事務所内の上司と部下のもめごとだと当初から発表していれば、印象はだいぶ変わったのではないかと思います。つまり、デザイナーとしては優秀かもしれないけど、上司(とか経営者)としてはイマイチだったんだね、という論調があったのかもしれません。これが100%正しいとは言いませんが、現時点で他の作品に対する疑惑がどんどん出てきているのも、「自分が至らないせいです」と言い続けていたらまた変わってくる部分もあるのではと思えます。なんなら、同様の出来事の今後の防止策として、チェック体制の強化だけではなく、事務所の風土や待遇の改革まで発表しても良いのかもしれません。
と、繰り返しますがここまでは本当に想像でしかありませんので事実がどうかはわかりません。ただ思うのは、ご当人はすでにかなり追い詰められた様子ではあるけれど、まだ間に合うのでは? ということです。例えば五輪のエンブレムについても、すでに若い世代などから優れた案が自発的に挙げられてきています。そうした若くて優秀なデザイナーと組んで新しいものを生み出すことは可能でしょうし、今後についても引退するとかではなくて、若手をとりまとめて(報酬込みの)仕事を分け与えることで後進の育成に取り組むとか、必ず再生の機会は訪れるはずです。悲観せず、恨まず、前を向いて欲しいなと、仮想の危機管理対応担当者としては思います。
アイキャッチに使用した画像はフリー素材です。designed by Freepik.com:ロゴ Freepikによるベクターデザイン