地元企業こそが時代の先端を行く話

先日、岡山県の自動車販売会社である「岡山トヨペット」の制作した安全運転の啓発動画が、岡山県が「日本一ウインカーを出さない県」として注目されるきっかけとなり大変話題になっています、というニュースが流れました。「話題になっている」ということがニュースになるのだろうか…と微妙な気持ちにもなりますが、今回はそういう話ではありません。

この動画は、ある調査で「ウインカーを出さずに右左折する車が多い県」として岡山県がワースト(で1位)になったことを受け、岡山トヨペット社が昨年から取り組んでいる「交通事故ゼロ・プロジェクト」の一環として制作したCMとのことです。動画上で展開されるプチプチ(緩衝材)に包まれた人々の世界観が一見わかりにくそうにも感じますが、動画内容の評価はともかくとして、このCMについて非常に感銘を受けたのは、地元の一企業であり、いわゆる小売業・販売会社さんが、自社製品に直接つながるわけではない内容でCM制作をしたという点です。

もちろん、トヨペットは言わずと知れたトヨタ自動車のディーラー(販売店)のひとつで、他県でもそれぞれのトヨペットで地域限定CM制作をしているくらいですから、きちんとその制作費としての予算も付与されているのでしょうし、大手企業傘下だからできることなんでしょ、と言ってしまえばそれまでのことなのですが…。

しかしです。こういうことを決断するのに、大手とか中小とかはそれほど関係はないはずです。また、決断してやろうとするかしないか、できるかできないか、の違いはCM制作に限らずビジネス上のどの局面でも直面することなのではないでしょうか。まさにその「ビジネス上」の観点から考えた場合に、今回の事例では、同社がもともと「交通事故ゼロ」のプロジェクトを進めていたとはいえ、自社が居を構える街(町)に対して安全運転を啓発しようと考え、その結果、自社製品ではなく、自社製品によってもたらされる可能性のある事故防止を訴えるべく制作した、という点は非常に重要な点だと思います。これが県庁などの行政機関や警察関係機関やAC(公共広告機構)がキャンペーン用に制作したというならまだわかりますが、あくまでも地元企業が行ったことですから。大手企業さんは何をしているのですか? という問いかけをした時、これまでのような理由では言い訳が立たなくなる気がしています。

実はこれこそが、今求められている広報や広告の考え方、あり方ではないかと思うのです。

下手な啓発活動など展開したら一部の消費者からクレームがくるのではないかと恐れたり、自社製品の売り上げにつながらない活動はできっこないとかすべきではないとか製品を宣伝しないでどうするのだと決めつけてみたり、中小企業などでは、地元でも知名度も低いしPRや広告ができるような製品もないし…とついつい考えてしまいがちではありますが、そのような方々にこそ、今回のこの動画制作を決意した人々の姿を想像していただきたいのです。

実際に同じようなことばかりして効果があるかは未知数ですが、こうした啓発活動を企業がするかしないかということで言ったら、した方が断然良い、というのが現在の消費者の企業への目線であり、社会の位相ではないかと思います。自社の売上げばかりを考えることは、会社の中の地位は安泰かもしれませんが、その安泰な地位を担保する会社が危なくなっては意味がないのです。

携帯電話関連の企業であれば「歩きスマホはダメ」という啓発はもっとガンガンやるべきでしょうし、食品関係の企業が食中毒や感染症予防のために手洗い励行の活動をやったって良いでしょう。さらに、今回の事例では映像によるCMという手法を採用していますが、メッセージ内容を伝えるのにもっとも効果的な手法で実施することも重要と思います。電鉄会社では車内のマナー向上をポスターなどで展開していますが、慌ただしいラッシュ時に目を向けることは少ない可能性もありますので、逆にあえてテレビCMで流してみてはどうでしょうか? といったことで、今回の例でもその手法によって全国的に「話題になる」きっかけが生み出されたわけです。

ここには、自社製品の直接の訴求は当然ながらありません。しかし自社製品に関わる、その周辺の社会的な課題を解決できるように働きかけていくこと、心を砕いていると見せていくことは、社会貢献活動などとは別の文脈で、多くの企業にとって、これからどんどん重要な活動になっていくのではないかと予測します。もちろんこれらのことと同様に、地元企業や商店街がその街に対してできることだってまだまだあるはずで、その内容によっては広く自社をPRする機会となり得るかもしれません(いまだ交通安全系の課題は各所に存在しますし、それ以外にもゴミの問題や環境保全の推進等々も考えられます)。

以下は蛇足ですが、このウインカーを出さない運転手などというのは、普通に、どこに行っても確実にいますので、たまたまアンケートの数字上で岡山がワーストだったということだけで注目されるのはちょっと可哀想な気もします。この調査はインターネットで、どう思うか? というあくまでも感覚、個人の意見を聞いているものですので。しかし、もしウインカーを出さない車を実数としてカウントする方法がこの世にあるならば、自動車の絶対数から考えても、間違いなくそのワーストは東京都になるはずです。ということで、東京の自動車関連の企業さんには今後も大いに期待しています!