結論からいきなり書くなら、「はい、書けます」になるでしょう。
しかし、「いくら事実ベースで書くのがリリースといえど、細かなニュアンスが含まれることもあるから、やはりAIには無理なのでは…」と反論したい広報関係者は多いかも知れません。
これまでAI(Artificial Intelligence)というのは、「ターミネーター」シリーズに出てくる「スカイネット」の影響なのか、日本語の「人工知能」という訳語のせいなのか(intelligenceの訳は「高度に発達した知能」または「知性」)、自分で学習してどんどん成長していくもの、というイメージが先行していますが、現実世界のAIは独力でどんどん学習していくわけではなく、あくまでも人間が「データ(それも大量の)」をぶち込むことで成立しています(2020年6月時点)。
よって、ただAIというものがあって、リリースを書けとコマンドを入れたら書いてくれるわけではなく、「リリースを書かせるためのAI」を準備して、それ相応のセットアップをする必要はあります。例えば、リリース作成に必要なデータとして、リリースの体裁、目的や背景などの基本情報、5W1Hを入れるルール、ニュースポイントを展開する法則、広報的に求められる言葉遣いや表現方法、過去の膨大な事例等々…を、あらかじめ用意して学ばせることができれば、AIにもリリースを書くことは(理論上は)ほぼ可能なはずです。
しかも、AIがリリース作成したものは、当然ながら「人間が修正」できますので、作成が可能か不可能かというお題への反応として「細かいところまでは無理」というのは、論点がずれています。
それでも「やっぱり、できっこない」と主張するのは、そもそもリリース作成に関するデータ(ノウハウ?)をAIに学習させる気がない(面倒くさい)か、「AIに仕事を奪われたくない」式の典型的な間違った考え方(不安と恐怖)に基づく反応だということは、ここで断言しておきたいと思います(そもそも、可能性の話を頭ごなしに否定してくる人って結構いますが、あれは何なのでしょうね…)。
また、広報の仕事がなくなるとするならば、それはAIがリリースを書くようになったからではなくて、社会がもう広報を必要としなくなったらか、ということになるのではないでしょうか。
それは例えば、人間が現在のように情報を外部から受け取るのではなく、AIが常に人間に付属するようになり、そのAIがホスト(人間)に必要な情報を勝手に探して内部的に(ホストのみにカスタマイズされた情報として)提供してくれるような時代になったら、というような。
そのAIはおそらく、同業他社との比較もしてくれますし、その商品やサービスの良し悪しや、ホストにとっての必要性を判断して提供するようになるので、もはや広報による情報発信やメディアを介した情報を収集する必要はなくなる、という解釈です。もちろんその場合でも、オンライン上に自社の最新情報を置きに行く作業や、リリースAIにある程度の基本情報を入力する作業は必要になるので、それを人間が行うならば、それは誰かがやらないといけないわけですが、正直それは、誰がやっても良い作業…です。
先に、「AIに仕事を奪われる」という考え方は間違いと書きましたが、個人的には、広報に限らず、AIは人間の仕事を奪うものではなく、人間の仕事を大幅に肩代わりしてくれる、人間がその作業をしないことで新たな時間を提供するもの、と考えています。
わかりやすいところで言えば、日々進化を続けている、AIによる機械翻訳(自動翻訳)が挙げられます。当初は、英語を日本語に訳した文章を読んで、その意味不明さに失笑する、というお遊びのような使い方でしたが、第二世代以降のAI翻訳ではもう笑えなくなっています。もちろん完璧ではありませんが、多少の手直しで済むレベルに至っているからです。
他にも、話している音声の文字起こしをするAI(議事録作成AIというのもあります)、とか、音声の文字を起こしたものをそのまま字幕にして動画に挿入してくれるAI、といったものまで出てきています(いずれもオンライン上で実行可能なもので、しかも無料の場合もあります)。
それでもまだ精度が…と否定的に捉えたい方は、実は「AI /テクノロジー全般への恐怖組」なのかもしれません。マイナンバーカードで個人情報が流出するのでは、とか、電子マネーを使ったら不正に引き落とされるのでは、といった恐怖と同じレベルですね。
AIと共存することで人間は何が獲得できるのか? については、すでに述べましたが「考える時間」です。
広報で考えるなら、仮にリリースをAIが書いてくれるなら、本来なら人間が書いていたその2~3時間(場合によってはもっと)で、別のことを考えたり、作業をする時間が創出されます。広報はPR会社での業務に代表されるように、ひたすら実務、という印象がありますが、実際には「考えながら実務」をしています。
でも実務には納期がありますので、どうしても考える領域は即断即決的になり、熟慮するよりも前に実務の成果物の提出が優先されます。しかし、この時間を「考えること」に当てられるとしたらどうでしょうか。より良い企画が提案できるかもしれませんし、大きな企画でなくとも現在進行中の案件に対して付加価値を加えられるようなアイデアが思いつくかもしれません。このことは、PR会社に限らず、企業の広報部ではもっとも「必要な時間」と言えます。
つまりAIは、人間の仕事を奪うのではなく、人間の仕事をより良くして、クオリティを高めていくためのツールと捉えるべきなのです。逆に言えば、今は目の前の業務に忙殺されるばかりで、深く考えるということができていない、という広報担当の方にこそ、こうしたツールを活用することが求められるのではないでしょうか。
今のところ、まだリリースを書いてくれるAIは存在していないと思いますが、ぜひ、日々の単純業務やちょっと時間のかかるような作業について、それを代わりにしてくれるAIがないか、探してみてください。知らなかっただけで、実はそういうAIを搭載したシステムを、世界のどこかで誰かが開発してくれているかもしれません。