事実と闘う広報①

広報の仕事は「事実を伝えること」としばしば言われます。

しかし、一口に「事実」と言っても「誰もが思っていても言わない本当のことを言う」のと「その製品やサービスが持つ特徴を嘘を交えずに伝える」のとでは、意味的にはどちらも事実を伝える行為ながら、言うまでもなく広報での使いどころはまったく異なります。

例えば、食品関連の広報をしていたとして、社内で新製品の試食会があったので口にしてみたところ、自分の味覚としてはおいしいと思えなかったとします。この「マズい」という味覚は本人にとっては間違いようもない事実ではありますし、そういう場合は大抵他の人もマズいと感じてる場合が多いとは思いますが、しかしもちろん、会社の広報としてはこの、誰も言わない本当のことを言うなどあり得ないわけです。せいぜい帰宅途中の居酒屋で同僚と「いや~、あの新製品はマズかった…」とか小声でぼそっと言う程度でしょう。

では何をするかといえば、味はともかく、原料がもつ機能性だとか純国産品であるとか、その手の特徴があるならばそれを前面に押し出してPRするほかはないのです。しかしまあ、大抵の場合、そういうのもない場合が多いので、広報担当者としては事実をつくるしかないわけです。広く社会をじっと見つめて、他社では指摘していないが実はこの製品は今の社会にこんな風に必要とされているのではないですか、というようなことは言える、ニーズはデータという形で事実化できるし、そういう提案はできるという点で「事実をつくっていく」。このような側面があるからこそ、広報の仕事は面白く感じられますし、実際にこれは本当の意味で、広報の腕の見せ所になるのだろうと思います。

しかしそれでも、やはり広報担当者は、心の中の「でも、マズい」という気持ち、誰も言わない事実を消してはいけないとも思います。マズいからこそ良いところを見つけようとします。開発者に感想を伝えて次の製品から改善してもらうこともできるかもしれません。もうこの製品はダメなので適当にやり過ごそう、というのではなくて、「今回は特徴もないし(味もアレなので)、こんなふうに広報のメッセージをつくってみました」ときちんと周囲(社内)に伝えること。実際にそんな味ならネットで悪口を書かれるのでそのマネジメントも広報の仕事にはなりそうですが、しかしそのマネジメントよりかはこちらの方がよほど、広報にとっての重要な仕事だろうと思います。

だから結局のところ広報の仕事とは、事実とは何か? という問い=表面的な事実だけではなく誰も言わない本当のことも含めて、をずっと自身に問い続けるようなところがあり、それは実際に行ってみると、割と引き裂かれるような思いを味わうのですが、それでもこのことが耐えられない、そもそも感性として(ネガティブなことを)感じ取れないという人は、あまり広報には向いていないのかもしれない、とさえ思います。