【広報の可能性を考える】あえてダイバーシティの概念を疑ってみる①

これまでに、ダイバーシティ(多様性)を活かした職場環境をつくろうと、その推進に取り組んできた企業や組織は数多く存在します。しかし中には「ダイバーシティの理念=念仏」になってしまい、最近ではすっかり形骸化している、もしくはひどいところでは取り組みの実体はすでに消滅しているのに、企業イメージのためだけに目標数値や(実際は無形化している)制度を掲げ続けている企業もきっとあることでしょう。

日本を含む、世界でダイバーシティが推進されるようになった背景には、近代化を迎えても性差が是正されないことへの解決策だったわけですが、日本ではやはりというか(ガラパゴス的な?)独自の展開を見せているような側面もあり、本来のダイバーシティ的な意味合いというよりは、いろいろうるさく言われないようにとの理由で女性を腫れ物のように扱い、男性自身が男性性を貶めることによってさも女性を持ち上げているかのように見せる、という傾向も一部にはあるようです(サラリーマン川柳で展開される自虐ネタなどがその代表例)。

本来のダイバーシティの意味は(繰り返しになりますが)「多様性」であり、女性だけではなく男性も対象に含まれています。昨今では性差だけではなく、障害者やLGBTの人たちも本来的な意味合いに立ち返って含める動きが出てきていますが、実際はもっとシンプルに「働く人を何かで差別しない職場」を目指す取り組みであるはずです。自らの「ダイバーシティの取り組み」をさかんにPRしようとする企業や組織はいまだ根強いですが、それは自社内に「差別がある」ということを公言しているのと同義であることには、いい加減気づくべきかと思います。もちろん、差別などない、などと嘘を言ってもいけませんが。

もしこれからも、新たにダイバーシティの取り組みをPRしていこうという広報部門の方がいらっしゃるならば、それは自社がそのことを発表すると判明した時点で、実態がどうであるかをきちんとリサーチし、外部への広報だけではなく内部における差別解消のタイミングでもあるととらえて、制度の公表以前の差別問題の解消に取り組むべきではないでしょうか。その行動こそが、その組織の未来を左右すると言っても過言ではないと思います。

ですから社内リサーチをした結果、ダイバーシティ推進の実態が伴わない組織なのであれば、PRもしない(というか、できない)くらいの意気込みも必要になるでしょう。ありがちな例で恐縮ですが例えば、一部の既得権益を有する層が得をするような組織…女性が多い職場だから女性だけを優遇する制度がたくさんあるとか、経営層は男性しかいないのに上辺だけ「女性を活用する」とか言ってる組織ではダメ、ということです。他社事例も多数把握すべきですし、基本的な人事施策への理解も深めなければなりません。ただなんとなく他もやってるからウチもね、程度の意識ではなく、ダイバーシティについて広報するということは、社内のダイバーシティ推進の一翼を広報部門も担うのだという覚悟が必要となるはずです。

とはいえ、あまり壮大なことばかり言っていても非現実的なのも確かですし、性差解消のための制度にしても課題は山積しているわけですので、今回は性差に関するいくつかの事例を挙げて、考えを深めていきたいと思います。

(②へつづく)