【広報の可能性を考える】あえてダイバーシティの概念を疑ってみる②

 呼称にみる気遣いと差別

秋を表す故事ことわざのひとつに「女心と秋の空」というものがありますが、このことわざには異常な記憶があります。以前、何かのテレビ番組でお笑い芸人が「女性心(じょせいごころ)はわかんないんですよー!」と叫んでいたことがあるのです。今のテレビでは、芸人が女性のことを「女(おんな)」と呼び表してはならず、すべて「女性」と呼ばなければならない、だから「女心(おんなごころ)」というのもきっとNGなので「女性心」と言わなければ! という彼のとっさの判断だったのでしょう。しかしおかしいものはおかしいです。「女ごころ」を「女性ごころ」などと言い換えている人には、後にも先にもついぞ遭遇したことがありません。

かたやテレビでもニュース番組では、犯罪の報道で犯人の性別を表す際には「50代の女が」とか「男が逃走中」などと表現します。これはこれで異様な感じもします。別に犯罪を犯した可能性がある人間であっても「50代の女性が」とか「男性が逃走中」で良いと思うのですが、犯罪者は呼び捨てというかなんというか、丁寧な表現は必要ないというわけです。しかしここにも、性別表現を用いた巧妙な差別が忍んでいる気がします。犯罪の容疑者とされるような人物は、実際に犯罪を犯したかどうかはともかく、男とか女とかモノのように扱って良い、容疑者なんて犯罪者と同じだと言わんばかりの価値判断は、実社会に影響を及ぼす可能性があります。

ちなみに、このことわざには前身があるようで、かつては「男心と秋の空」という言葉のみだったそうです。現在は両方、並存しています。男の気持ちというのは秋の空のように他の女性に移ろいやすい、という意味らしく、それが転じて「女心」も登場してきたと。もちろん「女心」の方には、「男心」が意味するような浮気癖などというニュアンスは含まれてはいないのでしょう、おそらく。

→ 職場でも中年男性が「だから女はダメなんだ!」とか小声で言っていそうなイメージが浮かんできますが、これを「だから女性はダメなんだ!」と言い換えてもまったく無意味だということがよくわかります。また、職場においては「女の気持ち」とか「男の気持ち」と区別する必要はなく、単に「働く者の気持ち」があるだけです。 ですから、職場で「女心がわからない」などと性別を分けてその心の動きについて話題にする人がいたら要注意です。

 男性は暴力を振るわれても我慢すべきなのか?

イギリスのDV被害の支援団体が制作した動画に興味深い指摘があります。

その映像の前半では、街中で、(動画撮影のための仕込みの)男性が(同じく仕込みの)女性に暴力を振るっていると、周囲にいた人々が血相を変えて男性を止めに入ってくるのですが、後半部分ではこの男女の関係が反転します。つまり、女性が男性に暴力を振るうケースでは、男性が女性にするより激しい暴力(殴打など)があるにもかかわらず、周囲の人々はただニヤニヤ笑っているだけで誰も取り合わず、実質暴力を振るわれている男性は誰からも助けてもらえないという内容で、映像の最後には「DV被害者の40%は男性です」というテロップが流れます。このニヤニヤ映像の切り取り方が、最初は嫌らしい感じだなぁ、と思ったのですが、よくよく考えると実は意味がありそうです。

https://www.youtube.com/watch?v=u3PgH86OyEM

ちなみにこの動画のタイトルは「#ViolenceIsViolence」。暴力は暴力、ということです。世界的に見ても、男性から女性への加害は断じて許されることはないが、女性から男性への加害行為は許容されるとかのレベルですらなく、むしろニヤニヤ笑いで受け流される、という風潮が存在しているようです。しかし、女性から男性への加害を許している背景そしてニヤニヤ笑いの背後には、確実に、女性の方が力が弱く男は強いんだから、とか、男のくせに…という性差別意識が根強く残っていることにも気づいていかなくてはなりません。

そういえば、安部総理が「断じて許せない」と何か事が起こるたびに言い放ちますが、断じようが断じまいが許せない、許されざることに変わりはないはずです。「断じて」とつけ加えることで彼は、許すものの対象に自ら範囲を決め、最上位に許せないと線引きしてしまっていることに気がついていないと思いますが、今の日本社会で、この手の無意識の「区別」が横行していることは注意点です。

日本でも最近、強姦罪などの性犯罪に関する法改正の検討が始まり、男性が常に加害者であり女性だけが被害者という現行法の性別の前提は撤廃され、男女の差がなくなるようです。世界的に見ても「いかなる加害行為であっても、加害者の性別は無関係」とする方向性が見え始めているのです。

→ 職場での加害行為といえば「セクハラ」や「パワハラ」が代表的です。セクハラは、言われた本人が嫌だと感じたらすべてセクハラです。セクハラ=女性が被害者というのはデータ上の事実と思いますが、女性から男性へのセクハラ(彼女はいないの? とか結婚しないの? や、男らしくないわね、とか、女の子みたいねと言われるなど)も普通にたくさんあります。

「言われた本人が嫌だと思ったらセクハラだなんて、何も言えなくなる」という人がいますが、まったく仰る通りで「職場で言う必要のないことを言っている」のだから問題になるだけなのです。働いている人に恋人がいようがいまいが結婚してようがなんだろうが、職場でする仕事には一切関係がないことです。職場のコミュニケーションなのに、とか、潤滑剤だ、などという人には、会話術やコミュニケーション術を教えるサイトでも紹介してあげたら良いと思います。

(③へつづく)