調布市墜落事故に想うこと

調布飛行場を飛び立った自家用セスナが付近の住宅街に墜落し、住宅火災と死者を出した事故は、調布市にオフィスを置くPR会社としても、調布市住民としても、大変痛ましく感じ、事故当日は相当に気分が落ち込みました。事実、セスナ機の飛び立つ音を毎日のように耳にしている住民のひとりとしては、もしあのセスナがウチに突っ込んできたら…とすぐさま想像し、悲しくなりました。

しかし一夜明け、各種報道やいろいろな人のコメントを見ているうちに、そうしたものに対して「違和感」が生じてきました。まず、こういう事故が起こるたびに、当該施設(調布飛行場)を閉鎖しろ的な意見が出ることについてですが、今回事故を起こしたのはあくまでも「自家用機」であり、調布飛行場は本来は自家用機のためにあるのではなく、伊豆諸島との定期便の離発着の拠点であるということです。その定期便の飛行機は、観光客を運ぶのはもちろん、離島に暮らす怪我人やがんなどの重い病に罹る患者さんなどが、定期的に都内の病院で診察・治療を受けるためにも使用されている重要な「足」になっていることは、もっと知られるべきかと思います。

また、事故当日は昼から夜までの長きにわたって、複数の報道ヘリが調布の上空を旋回し、轟音を撒き散らして飛んでいました。セスナ機の墜落など絶対に許せない、あってはならない、という気持ちは多くの人と同じですが、そうはいっても人の造った乗り物である以上、100%事故のない保証などあり得ません。であればヘリコプターも同様で、あれだけの数のヘリが自分の住む街の上空を旋回する様を目にして「万一あれ(=報道ヘリ)のうちのひとつでも落ちたらどうするのだろうか?」と思わないはずもありません。報道や情報番組のMCやコメンテーターの方々は、口を揃えて「事故を起こしたセスナは住宅ではなく、広い場所に落ちることはできなかったのか?」などとパイロットに全責任を負わせたいような発言をしていましたが、ではおそらく、さぞやあの報道ヘリのパイロットにも同じこと(落ちる時は広場に落ちろ!)を厳命し、かつヘリの整備会社には絶対に落ちないような整備を命じているのでしょうね。でなければ、模型やCGで十分に説明可能な空港と住宅の位置関係を示すためだけに、国内外で頻繁に墜落実績のあるヘリコプターを、あれだけの数飛ばす必要など本来はないわけですから…。

さらには、機体の整備を行う日本エアロテック社がすぐに謝罪会見を行ったのは良かったとしても、その中で同社社長が「機体トラブルはないと確信している」と話したことです。この違和感は発言時にも感じましたが、原因はいまだ不明としながらも「猛暑が原因」という可能性が示唆されてきたため、ますます強くなってしまいました。

7月から始まった危機管理をテーマにしたドラマ「リスクの神様」の第1話が、自走式掃除機が猛暑で発火し住宅火災を起こしたために謝罪会見を開くという内容だったのですが、もし本当に墜落事故が猛暑のせいだったとすると、エアロテック社の「謝罪の内容」も変わってきてしまうのではないでしょうか(もちろんこのドラマはドラマで、第1話での広報は「あのCMつくるの大変だったの」とか言ってチャラいだけで、謝罪会見には関与どころか関知すらしてなくて完全スルーという、ちょっとありえない展開だったのですが)。もちろん、猛暑は無関係かもしれません。実際の事故原因もこれから明らかになるでしょう。しかし、事故直後の段階で「社長の確信」などを会見で述べるというのは、広報または危機管理の観点からも、亡くなられた方に対しても、それはちょっとないのでは、と思いました。機体トラブルかパイロット以外に、機体が落ちる原因などあり得ないわけですから。

もしこれで、危機管理コンサルタントが関わっているのだとすると手落ちでしょうし、関わっていないのでしたら、今後はぜひとも、危機管理や広報の専門家に関わってもらうべきだと思います。なぜなら、もし本当に猛暑が原因だとしたら、それは当時においては未知の原因だったかもしれませんが、それでも「猛暑対策をしていなかったという不備」は白日の下に晒されることになります。繰り返しますが、もちろん原因は別かもしれません。しかし、原因未確定の段階においては、未知の原因の可能性は考えるべきで、その段階で確信や希望的観測を述べることは、広報や危機管理においてだけでなく、亡くなった方に対してだって、絶対に「やってはいけないこと」だと感じます。