「ねほりんぱほりん」から想像する、広報がイノベーターになる日 ①

この3月までにEテレで水曜深夜に放送されていた「ねほりんぱほりん」(現在は番組が終了)を見ていて毎回、この番組のことをすごいと感じていたのは、NHKなのに結構ディープな話題に切り込んでいるからでも、ネットでもあまり知ることができないような話を当事者が(顔を出さないとはいえ)赤裸々に語っているからとかでもなくて、この番組が「人形劇である」ということ。そのことに尽きました。

NHKの人形劇といえば、日本でテレビを最初に放送したNHKの開局当時(1953年)から提供されている超老舗コンテンツです。これまで64年間にわたり「ひょっこりひょうたん島」や「プリンプリン物語」、「三国志」や「三銃士」などの名作の数々でその技を培ってきたわけで、こうした人形劇は歴史的にも技術的にも、もはや古典芸能と呼んでも良いくらいの域に達しています。その綿々と受け継がれてきた技術の粋を結集し、それこそ全部入りで、しかし内容は現代版に完全アップデートするという芸当に出ていたのが、この「ねほりんぱほりん」の人形劇でした。

何よりも驚愕だったのは、その顔出しNGの内容を再現する「再現VTR」まで人形劇でやっていたところで、というか、トークパートも含めて全編(30分)すべて人形劇なわけですが…株で億単位の資産を有する人の回では、人形劇サイズの「四季報」を億万長者の人の人形(ブタちゃん)がめくっていて…ここまでの制作者のこだわりの凄まじさには、もう笑いを通り越して感心するしかありませんでした。ブタちゃんも本当に可愛いかったですしね。全部過去形で書かないといけないのが残念なくらいです(まあ、そんな細かい作業をずっと続けるのも大変なのでしょうけれど)。

この番組については、企画したときの社内(?)の企画会議の様子を勝手に想像したりします。

P「おい、そろそろ新しい企画出さないと次の改編に間に合わねーぞっ!」

スタッフ「はぁ…いろいろ考えてはいるんですが。例えば深夜枠でちょっとディープな話を、本人が出てきて話す、みたいなトークショーはどうでしょうか?」

P「ディープってどんくらいの?」

スタッフ「えっと…ブログで自分を偽装する女子とか、薬物中毒の人とか…NHK的な感じで今の世相をちょっと斬る感じ、っていうか…」

P「んなもん、誰が出てくれるんだよ! 無理に決まってんだろ!」

スタッフ「ですよね…」

みんなであれこれ意見を出して考えるものの、企画は一向にまとまりません。企画会議は深夜にまでおよび皆が疲労の色を色濃くする頃、朝日がもうのぼろうかという時間に、誰かがふとつぶやきました…。

スタッフの誰か「うぁぅぅ…こ、これってさー…人形劇でやったらいんじゃね?」

全員「……!!」

…もちろんすべて完全な想像(妄想)ですが、この「顔出しNGの訳ありな人の話を人形劇で語らせる」などという発想は、NHKのスタッフ・関係者だからこそ出てきたアイデアだと思いますし、逆にこの古典芸能的技術をもっともありえないものと結びつけたという点では、ありそうでなかった企画なわけですから、最初に発案した人は本物のイノベーターと言えると思います。

「オワコン」と言われて久しいテレビが、すでに忘れられかけているくらい過去の遺産を自社の地下深くから引っ張り出してきて、まさに今の旬な話題を当事者に語らせるという組み合わせを発明する。もはや現代におけるイノベーションとは、こうしたマッシュアップからしか生まれないのだ、と断じても過言ではないほどで、「ウチの会社、将来性もないし、マジヤバいわー。終わってんな~」などと居酒屋でぼやいてる会社員さんには、この番組を絶対見なさいと強く訴えたいです。もう見られませんけど。オンデマンドとかあるし…。

似たような案件には、昨年のヒット商品とも称された「iQOS(アイコス)」が挙げられます。

タバコはこれまで売上げが年々減少しており、社会環境として喫煙場所も激減し、喫煙者・非喫煙者ともに健康を害する商品として糾弾される日々が続き、もはや絶滅(タバコ会社が倒産)するのは時間の問題と考えられてきました。しかし多分ある時、そのタバコ会社(海外の会社ですが)の誰かが、ふとつぶやいたのでしょう。「だったらもう、タバコ売るのやめたらいんじゃね?」と(妄想)。

タールを含んだ紙巻き煙草に火をつけて吸うから煙が出て害を及ぼすのだから煙を出さなければ良い。火をつけられないなら電気で蒸せば良い。そうしたらタールも不要ということで、有害物質を大幅に低減しながら(会社発表では既存の紙巻より90%有害物質を低減とのこと)、ニコチンを摂取する新しいデバイスとして誕生したのが、「iQOS(アイコス)」です。煙草しか扱っていない製造販売元の社内は、それまではさぞや将来への不安で皆が鬱々としていたことでしょう。しかしその閉塞感を打ち破ったのは、タバコ会社自身が考える「タバコではないタバコの代替品」を発想したことでした。

タバコの会社なんだからタバコを売らなきゃしょうがないじゃん、という多くの社員の既成概念を超えて、まったく別物の「タバコ風」の新たな商品を生み出したこの会社では、早くも「近い将来タバコの生産を中止する」宣言がなされました。もちろん、日本のタバコ会社も必死で紙巻以外のタバコを必死に開発しようとしていますが、既得権益に守られすぎたからか、いまだその普及にはまったく至っていないのが実情です。

②へつづく